ストラテージュ
【勝負気配SS】血塗られた運命と矢作の冷徹な計算。今週の伊万里特別で「全ツッパ」すべき理由
今週土曜、小倉10R・伊万里特別(ダート1000m)。
ここに、一頭の「背水の陣」を敷く馬がいる。
鞍上は古川奈穂。管理するのは、世界の矢作芳人調教師。
一見すると、名門厩舎が若手騎手を乗せてローカル開催を使う、よくある光景に見えるかもしれない。だが、この馬の背景にある「鼻出血(EIPH)」という悲しい物語と、それを承知で送り出す矢作厩舎の冷徹なまでの勝負気配を知れば、このレースの見え方は一変する。
これは、ただの条件戦ではない。
「壊れるか、勝つか」のギリギリのギャンブルだ。
1. 競走馬にとって「鼻出血」とは何か
まず、この馬が抱える「爆弾」について触れねばならない。
競走馬の鼻出血(EIPH)は、人間が鼻血を出すのとは訳が違う。極限の運動負荷によって肺の毛細血管が圧力に耐えきれず破裂し、肺の中が血で溢れる病気だ。
発症した馬は、レース中に「自分の血で溺れる」ような感覚に陥るという。
その恐怖はトラウマになり、肉体的な血管の脆さ(瘢痕化)も残る。再発率は極めて高く、JRAのルールでも再発すれば長期間の出走停止、つまり「事実上の引退」が突きつけられる。
この馬の肺には、いつ爆発するかわからないタイマーがセットされているのだ。
2. 世界のYAHAGIが見切った「寿命」
ここで、矢作厩舎の恐ろしさが際立つ。
普通なら「再発させないように、ゆっくり大事に…」と考えるところだ。しかし、彼らの判断は真逆だった。
そう言わんばかりのローテーションと調教内容だ。
前走から中5週。除外対象だったにも関わらず、運良く滑り込んだ今回の小倉1000m。
「来週の阪神1400mでは長い」
金羅助手はそうコメントした。1400mという距離は、全力疾走の時間が長すぎるのだ。血管が破裂するリスクが高まる。
だからこその「1000m」。
血管が悲鳴を上げる前にゴール板を駆け抜ける。それが、この馬に残された唯一の生存戦略なのだ。
3. 「究極仕上げ」が示すサイン
今週水曜の追い切り時計を見て、背筋が凍った人も多いのではないか。
- 栗東CW(不良):81.9 - 67.2 - 52.3 - 36.9 - 11.3
※古川騎手が自ら跨り、ゴール前で気合をつけてのラスト1F 11.3秒。
鼻出血持ちの馬に、レース直前にこれだけの負荷を掛ける。これは通常の調整ではない。
前走、+16kgの太め残りで敗れた反省から、「壊れてもいいから絞る」「ここで決める」という、なりふり構わぬ勝負手だ。
古川騎手のコメントも正直だ。
「先週は結構太かった。あとはこのひと追いと輸送でどれだけ絞れるか」
これは裏を返せば、「輸送ダイエットも含めた究極の賭け」に出ているということだ。
4. 結論:このレースに賭ける価値
この馬のキャリアは、そう長くはないだろう。
だからこそ、今回の伊万里特別は「最大瞬間風速」が出るタイミングだ。
- 能力: 2勝クラスでは抜けている(調教時計が証明)。
- 適性: 小倉1000mはベスト。
- 状態: 究極仕上げ。
- 運: 除外対象からの繰り上がり。
すべてのピースがハマった。
リスクはある。レース中に鼻出血が再発すれば、馬券は紙屑になり、馬は引退するかもしれない。
だが、このオッズ(想定3~5倍)で、これだけの「ドラマ」と「勝算」がある馬はそういない。
狙い目は一点。
儚くも脆い、ガラスのエース。
その最期の輝きになるかもしれない激走を、しっかりと見届けたい。